2023/11/12


聴講レポート:「障害者のリアルに迫る」ゼミ10周年記念イベント

「障害者のリアルに迫る」ゼミ10周年記念イベント 東大特別授『業障害者のリアル×東大生のリアル』を聴講する機会がありました。スペシャルゲストみなさんの感動的な講演。一人ひとりが自分らしく生きることの大切さを学びました。社会全体が理解と支え合いにより、障害者の権利が守られ、共生できる未来を築くべきです。以下にて、聴講レポートを記載します。


開催ポスター



野澤和弘先生より開会挨拶:当ゼミは2013年に始まり、有志の学生によって運営されている。障碍者の広範な「生きづらさ」に焦点を当て、タブーなく障害に関わる問題に着目する。ゼミでは、障害当事者や関係者のリアルな生活や人生に触れることを目指している。一人ひとりの障害者の思いに耳を傾け、当事者目線を忘れてはいけない。


スペシャルゲストの岡部さんと佐藤さん、ALS当事者のご講演。佐藤さんよりASLのご説明。岡部さんと佐藤さんはALSという病気を抱えながら、NPO法人「境を越えて」を立ち上げて活動を行っている。この難病は、筋肉を動かす神経が障害され、呼吸困難などを引き起こす進行性の疾患。日本では約1万人が罹患している。治療法は確立されていない。2-5年で重度の障害に至り、呼吸器をつける必要が出てくる。患者の約3割が人工呼吸器を装着しているが、経済的理由や本人の意向で装着しない場合もある。徐々に動けなくなっていく中で、患者は生きることを選択しなければならない。


スペシャルゲスト岡部さんALS当事者のお言葉:努力して目標を達成できることもあるが、達成できないこともある。努力は必要だが、努力できれば報われるとは限らない。人それぞれに自分らしく生きることが大切。生きる意味を見出すには努力することだけでなく、一瞬一瞬を大切に生きることにある。


スペシャルゲスト佐藤さんALS当事者のお言葉:東日本大震災を機にボランティア活動を始めた。その後、病気を発症し入院。被爆者の思いに触れ、祖父の戦争体験を調べ始めた。資料を通して、祖父の生き様や戦争の悲惨さを知り、平和の尊さを実感した。病気と向き合いながら、平和を願って生きていく決意をしている。ブログ「書くこと。生きること」を書いている。URL: https://satohiromi.amebaownd.com


ALS当事者の岡部さんと佐藤さん登壇後の質疑応答。

Q. 生死を等しく二択でとらえることに違和感を感じられたというお話がご著書やブログでありました。お二人のお考えを詳しくお聞きしたいです。」A. 生死を医学的な視点からは、生物は生きることに集中しており、死を選択することは不自然だと述べています。一方で、人間には生き方を選択する能力があると指摘し、生きる意味を考えることが重要。生き方の選択が、戦争などの問題を引き起こしている。生命の尊さと生き方の選択は自由。

Q. 岡部さんのご著籍で、先輩患者の方との出会いが、生きるかどうか迷うきっかけになったということを書かれていました。お二人にとって、ALSに罹患された後の他者との印象的な出会いはありましたか。A. 発病前は人生に対して楽観的であったが、病気を機に人生観が変わった。特に人間関係が以前とは大きく異なると実感した。ALSの進行に伴い、介護者との関係も難しくなった。介護者は「自分の一部」だと思うこともある反面、普通の関係ではないことを痛感することもある。他人の生命を尊重することは重要。重度の障害がある人の生きることを否定するのは、その人を殺すことと同じ。

Q. 事前インタビューに「世界には、聴かれなければならない言葉や、一人称では語れない思いを持ちながら、痛みや怯えの中に押し込まれたまま毎日を生きねばならない方が大勢おられます」とありました。「一人称では語れない思い」とはどのようなことでしょうか?A. 一人称で語れない痛みを抱える人が多く存在する。自身も、長年その痛みを隠してた。しかし、岡部さんとの出会いを機に、その痛みを語ることができるようになった。発信する場所と、発信を受け止めてくれる人が必要。周囲の理解がなければ、発信は困難。一人称で発信することの困難さと、他者の痛みを受け止めることが大切。

Q. 岡部さん、いつも素敵なお帽子をかぶられていますが、何個くらいお持ちですか。A. ご質問ありがとうございます。多分15ぐらい持っています。いつも帽子をかぶったままで失礼ですが、私は右上に黄斑変性症という難病を持っていて、眩しいと瞬きができなくなって、コミュニケーションができなくなります。それでいつも帽子をかぶっています。眼下のドクターから、サングラスをしなさいと言われて、そうしていた時期もありますが、あまり柄が悪い自分に気づいて、帽子にしました。

Q. 周囲の友人から「し〇だ方が楽」「し〇たい」という話・相談を受けることが少なくありません。そのような思いを抱いている人に対して、どのような応答があり得るのでしょうか。現状私は、話に傾聴し真摯に受け止める、「私はあなたに生きていてほしい」と伝える、その人の困難を乗り越えるために並走する、という応答しか持ち合わせていません。A. し〇たいという経緯を取り除くか、小さくするのかだと思います。ただ、だれかそばにいるだけでも十分。これまで、そばにいるだけで、どんなに救われてきたかと思う。でも、し〇たいと言える環境も大事で、それを言えることは、かなり甘えられるということです。それをぜひ覚えていただけたらと思う。何かの形で一緒にいるということを伝えられたらと思う。

Q. 障害の有無や軽重に関わらず、それぞれの人が自分らしく生きていられる為に、社会はどう変わるべきでしょうか。皆様は今後どう言った社会になってほしいと思われますか。A. 障害の有無に捉われず、誰もが自分らしく生きられる社会を実現するためには、一人ひとりが生きることの困難さを理解し合い、その人のために最善のことを考えることが大切。現在の社会では、障害者や高齢者などを迷惑だと感じている人が多く、社会全体として本気で支え合おうとする意識が乏しい。そうした意識の変革には、お互いの違いを理解し合うことが重要。誰もが安心して生きられる社会の実現が必要。どんな人も生きていける社会になってほしい。



野澤和弘先生と福島智先生のお言葉:福島智先生は視覚と聴覚に障害を併せ持つ盲ろう者。障害者支援において、当事者の立場からは政策やサービスに課題がある。生活上の困難に対する理解を社会に求め、当事者同士が互いに理解し合い、励まし合うことが大切。共通の経験を共有する仲間との交流が生きる力を与えてくれる。障害の有無にかかわらず、障害者の人権は平等に保障されるべきであり、技術の進展にもかかわらず、現状では権利の守りが不十分である。社会は障害者の立場に立ち、制度やインフラの整備を進める必要がある。誰もが障害を問わず共生できる具体的なビジョンを持ち、その実現に向けて努力することが重要。


レクチャー「壁を壊す福祉」にて、社会福祉法人愛川舜寿会 理事長、馬場拓也氏 によるお言葉:小規模多機能居宅介護、認知症グループホーム、放課後等デイサービス事業を行っている。認知症高齢者への事件を契機に施設が閉鎖的になりがちな状況を打破し、地域との繋がりを再構築するために取り組んでいる。ワークショップや行政との協力を通じて、地域との対話を深め、閉館した施設を再活用し、地域に開かれた拠点として運営するための計画を進めてきた。地域住民との定期的な対話や行事参加、施設の活動の公開などが大切。質疑応答では、感染症対策で制限された高齢者施設では、マスク着用の上で利用者の交流を続けて、感染症に負けないアプローチが実践されたことがハイライト。利用者がその人らしく生きるための支援を提供することが重要。



OB&現役大学生有志メンバーによるディスカッション。

■活動の振り返り
ゼミ設立のきっかけは、授業での出会い:就職活動に失敗して、授業での害当事者との出会いから世界が広がった経験がきっかけとなり、設立に至った。当事者の生の声を聞くことで、障害に対する関心が高まった。 
活動を通じて一人の人間として向き合う大切さを実感:障害当事者と対等に接する中で、一人の人間として向き合う大切さを実感できた。当事者のあるがままを受け入れ、普通に交流する中で気づきが得られた。
10年間の活動を通じて団体を発展:2013年の設立から毎年セミナーを開催し、10年の歴史を刻んできまきた。OBも協力し、後輩への引き継ぎを行っている。10周年を機に、一層の発展を目指している。発信力を高め、支援の輪を広げる方策を考えたい。
 
■現役メンバーの声
障害当事者の生い立ちと経験:障害当事者の方々の生い立ちと経験についてリアルに感じたこと…自身の生まれた環境や、障害とともに生きる上での困難や楽しさ。障害に対する偏見や差別がある反面、支え合う家族の存在、困難に立ち向かう姿勢や前向きな思考がある。
大学で障害者問題に対する理解が深まった:大学進学を契機に、障害者問題への興味が強まり、理解が深まった。一人ひとりが唯一無二の存在であることを実感し、自分自身や他者を肯定的に捉えることの大切さに気づいた。
障害当事者の立場からの問題提起:当事者の視点から、社会が抱える課題について問題提起。「健常者」と「障害者」という二分法的な考え方を改め、一人ひとりの存在を大切にする大切さに気づいた。

(以上)